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光のベールをひきながら、魚の群れが泳ぐ青空の下、私はある場所へと向かっていた。
電車は使わずに、バスに乗ること15分。
降り立った場所は、海沿いにある小さな、住宅街。
無造作に破られたルーズリーフの切れ端に書かれた、住所と大雑把な地図、そして。
初めて見る、丸くて小さめの、男にしては可愛すぎる、玲央の文字を見つめた。
昨日の夜に降った雨でできた、鏡にならぬ水たまりをうまくよけて、反対側の歩道へと小走りで渡る、と。
薄い茶色の毛に、ところどころ白や黒を混ぜた小さな小さな、子猫が。
私の足元へと、すり寄ってきた。
ゆっくりしゃがんで、軽すぎる子猫を抱える。
その柔らかな毛並みと、透き通るブルーの瞳に、玲央の顔が頭を過った。
「……悠」
猫の心に呼ばれたから、初めましてのごあいさつ。
「悠、俺」
「あ、玲央」
子猫に呼ばれたと思って、一人あいさつをしていると、二度目の私を呼ぶ声に、ようやく。
玲央がすぐそばで立っていることに、気付いた。
「やっぱりこの子、玲央の猫ちゃんか」
「猫と、話せるの」
「うん、心でね」
そう言って微笑み合う私たちを、不思議そうに見上げる子猫の頭を優しく、撫でて。
「俺の家、こっち」
ちょっと坂になっているほうを指さした玲央の横を、歩いた。
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