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今日は、前に約束していた「猫の名前をつける」を果たすため、に。
自分の家からさほど遠くはない、玲央の自宅にやってきた。
緩やかな坂を登り終えてすぐに見えた、淡いオレンジ色の小さなアパート。
迷うことなく、そのアパートの階段を上がり、「202」と書かれた扉を、玲央は開いた。
鍵を閉めずに出ることなんて、さすが沖縄の人間だな、と内心思いながら。
「どうぞ」とらしくないことを恥ずかしそうにする玲央に、くす、と笑いながら、中に入る。
2DKと至って普通のアパートだけど、家具は小さな収納棚1つとテレビだけ、で。
やけに広く、感じた。
「玲央、掃除とかできるの?」
「……できる」
「綺麗だねー。何もないじゃんか」
「悠には、負ける」
あ、ははー……まぁ私はほとんど家にいないから、ね。
まだ抱えていた子猫をゆっくりと床に下ろしてあげれば、部屋の隅になぜかある、玲央のジーパンらしき中にもぐり。
ひょこ、と足の裾から顔を、出した。
「やばい、かわいすぎるんですけど!」
「悠には、負ける」
「………」
何、今日はそれが口癖なんですか。
そんなこと言ったって何もでないし、何とも思いませんからねー。
そんな気持ちを込めて、じと、と玲央を見ると。
「ふふっ」
鼻で軽く、笑われた。
でも玲央が微笑んでくれるとつられて私も口元が緩むし、何よりも心が温かく、なる。
アンサンブルコンサート以来、よく笑うようになった、玲央。
これからもっと、いろんな表情をそばで見ていきたいな。
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