99人が本棚に入れています
本棚に追加
/223ページ
秋色がついた風の季節。
広すぎる家の庭に咲くのは、「暑い夏をご苦労様」とアメリカンブルー。
優しげなその笑顔はそんなふうに言ってくれるようで、ひっそりと咲いてくれていたんだ。
鮮やかな色を、霞んだ僕の前でも。
今日も何も変わることなく学校を終え、授業で学んだことの復習を、する。
シャーペンが文字を並べる音と、たまに教科書をめくる音だけが、部屋の中をうろつく。
3時間ほどしたところで、ちょっと休憩をするために、リビングへ降りた。
父の部屋の明かりがついているから、今日は珍しく早めに帰っているようだ。
……別に、いてもいなくても同じだから気にはならないけど。
スッキリと片付けられたリビングを通って、キッチンに立つ。
小腹が空いたからパスタでも茹でようかな。
幼いころから、母には音楽だけではなくて、料理も教わっていたからある程度のものは作れるように、なった。
今となっては、自分の手料理を食べてくれる人も、大好きだったテナーサックスを吹いている自分の姿を見てくれる人も、聞いてくれる人、も。
どこにも、いない。
カルボナーラの乗った皿を手に、ウッドデッキへと移動する。
小さな照明1つだけで、僕には十分、明るく見えた。
イタリア製の高級なイスに腰かけ、庭に咲く、アメリカンブルーを見つめる。
青は愛の色だったかな、と考えるけど、思い出せなくて。
近付く秋は漂うような、はっかの香りがする。
アメリカンブルー、醒めた夏の、花。
.
最初のコメントを投稿しよう!