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そんなある日の放課後。
帰宅部である俺は、職員室に提出し忘れていた課題を出して、教室にカバンを取りに戻った時。
中から、綺麗な歌声が聞こえてきた。
私が何が欲しくて、ここに居るの?
何度も問うて、それでも私はまた
手を伸ばしてその痛みを知る
言葉という凶器を
誰が生み出したのか
人類は進化していく
心は置いてけぼりにして
後悔の海に沈まないように
落ちないようにと
私たちは囲う小さな船で
そう いつも揺れているのにね
涙が集まってできた
後悔という名の海は
舐めてみたらこんなにもしょっぱい
綿菓子みたいな甘い気持ちは
みんな空の上にあるのに
言葉という狂気を
誰が生み出したのか
人類は進化していく
心を置いてけぼりにして
虹という幻想の端に
どうか足元をすくわれないで
歌っていたのは紛れもない、彼女で。
同じ帰宅部である彼女はいつも夕日が沈むころまで、教室に残っている。
柔らかい光が彼女の綺麗な横顔を映し出し、その切なげな声とメロディーと、表情に。
胸が、苦しくなった。
ここへ来るまでにどんなことがあったのか、あの青田ですら知らないと言う。
あっけらかんとしている笑顔の裏では、いつも何を考えているんだろう。
彼女のすべてを知りたい、俺だけに教えてほしい。
そう思っていても、彼女の周りにはいつも見えない壁が張っていて、踏み込めない。
分かっては、いる。
彼女がわざとそうして境界線を引いているってことくらい。
俺を「友達」としてしか見ていないってことくらい。
気付けば、教室に彼女の姿はなく、そらの横顔だけが、残っていた。
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