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高校に入学してから早いもので、1年が過ぎようとしていた時、思い切って彼女に「一緒に帰らないか?」と聞いてみると。
「じゃあビターチョコレート奢って!」
と、満面の笑みであっさりOKをもらえらことに、密かにガッツポーズ。
2人で駅に向かう途中にあるコンビニで彼女の大好物だというビターチョコレートを購入して。
いつもの他愛もない会話をしながら、肩を並べて歩いた。
いつも、俺の耳には彼女が隣にいなくても、彼女の声が聞こえていた。
まるで、イヤホンをしているかのように。
彼女の声だけがはっきりと俺の耳元で囁いていて、くすぐったいくらいふんわりした声なんだ。
でも今は、イヤホンなんていらない。
本物の彼女の声が俺の隣で、心地よく響いているから。
ふと、目が行ったのは、俺の左に立っている彼女の無防備な、右手。
繋ぎ、たい。
そんな欲求が溢れてきて、心はどうも落ち着かなくなった。
付き合ってもないし、彼女にそんな気はさらさらないと分かっては、いても。
少しだけ、どこかで期待している自分がいる。
心の中で1人、葛藤しながらも、そっと彼女の右手に俺の左手を近づけて、握ろうとする、と。
「あ!」
ふわり、風だけが通り過ぎて行った。
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