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(勝った……やった、やったよ、レイ……)
狂華の手から二振の刀が落ちる。金属質な音を立てて落下し、それから本人もその場にへたり込む。戦闘の激しさでいつの間にか破け、フードがめくれて素顔があらわになっていた。現れたのは緋色の長い髪。川のようにうねり、パサリと波打って重力に引かれて垂れる様は、誰かが見ていれば見惚れるほど美しいものだった。
苦しそうに荒い呼吸を繰り返すその者の顔は細く、色白でひどく美しかった。そして何より幼い。よもやこんな小さな可愛い女の子が最強と謳われていたなどと誰が想像できようか。
閉じられていた深紅の双眸がゆっくりと開かれ、土埃によって汚れた、小さく可愛らしい唇が笑みをこぼす。
「雪野ー!」
少女の本当の名を叫びながら空色のローブを着た者が走ってきた。雪野は振り返り嬉しそうに微笑むと手を挙げる。
「私、やったよ……!」
狂華の笑顔を見て空色のローブを着ている者はフードを脱ぎ、半泣きになりながら笑顔で走ってくる。現れたのは金髪の少年。狂華と歳に違いはないだろう。金色の右目と蒼色の左目が涙をこぼしそうになっており、
「っ!? 雪野、後ろ!!」
その目が驚愕に見開かれ彼が叫ぶ。え? と思いながら振り返ると、そこには当然敵がいる。血は流れていない。それは狂華の刀の能力の影響だ。切り口から徐々に花弁となっていき、最終的に消滅させる能力を持った双刀。だがすでに死んでいる。死体が花弁になっていく、ただそれだけだ。
それだけのはずだった。なのに。
「貴様も……道連れだ……!!」
敵が震える手を雪野に向け、魔方陣を展開していた。
まさかまだ生きていたとは思わず、完全に放心していた狂華は動けない。駆け寄ってくる少年も、敵の魔法が彼女の眼前で放たれるより早く対処はできない距離にいる。
(嘘……)
死ぬ。自分が他人に与えてきたことが迫ってくる。
カッ、と魔方陣が輝き、狂華と敵の頭上が光を放つ。
(お母さん、レイ……ごめんね)
ふたりに心の中で謝罪の言葉を呟く。魔法が発動したのだろう、頭上から何かが振ってくるのを感じた。
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