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「蓮くん。
このお兄ちゃんは教育によくないわ。
近づくときっと貴方の今後の人格形成に悪影響を及ぼすことになるわよ。
見たらすぐに逃げなさい」
蓮を床に下ろし、膝を曲げてしゃがんだ益子さんが、教師のような口調で幼い彼に忠告する。
蓮はよくわからないながらも、益子さんが怖いのか、学ブンがうざいのか
「うん」
と、こっくりうなずいてみせた。
「ひどっ益子さん!
なんで蓮にそんなこと言うんだよ!」
蓮に拒絶されてショックを受けた学ブンが抗議の声をあげる。
益子さんは立ち上がると、頭の天辺でひとつにお団子にまとめた、色気のない髪の後れ毛を整え、唇に笑みを浮かべた。
「私は事実を述べているだけよ。
未来ある子供の成長を守るのが大人の勤めです」
「俺だって未来ある青少年なんだけど?」
「あら。東條くんは、こんなときだけ都合よく子供になるのね?」
「益子さんだって、いつも俺のこと子供だって言ってるくせに。
こんなときだけ大人扱いすんだね?」
表面上は微笑み合う益子さんと学ブンの周りに険悪な空気が漂い始める。
二人の不穏な雰囲気に、周りの人間が怯えて遠巻きにしようとした時、
「あっ!ママー!」
蓮が嬉しそうに飛び跳ねて、みんなの注意がそちらに逸れた。
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