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災難だった。
その言葉に尽きる。
慌ててジーパンに履き替え玄関先に出てきてみると、制服とは違う可愛らしさで隣の家の塀にもたれかかった松本さんの姿があった。
「悪い、待たせて。っで何?」
「あの……ねぇ」
かろうじて蚊の鳴き声よりは大きいけど小さすぎてイラっとくる。
そんな彼女の視線がおもむろによそをむく。
つられる様にして僕もそっちを見る。
そこにはうちの裏にお住まいの黒木先生夫人が意味深な笑顔で飼い猫のシャムを撫でながらたっていた。
(ま、まずい!いらん噂がたっちまう!!)
このご婦人、質が悪いとこの辺では知られたスピーカーで、あることないことすべて言い振らしやがるんだ。
「松本さん、少し歩こうか!」
足早に彼女の手を引きその場を後にした。
これが災難だった事ではない。
これは序章だった。
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