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翌日には、永田さんの機嫌は戻っていて、
「なぁ、敏子」
「何?永田さん」
気軽に、名前で何度も呼び合っちゃって。
「こっち来て。ほれ、あ~んしてみ?」
と、言われて、
「あ~ん」
と、マグロの煮付けを何個も口の中に押し込まれる。
「どうだ?」
「…!」
喋れないし!
私は恥ずかしくて赤面。
「美味しいか?」
私は何度も頭を縦に振る。
美味しいって言うに、決まってんじゃん。
永田さんの作る煮魚の味も、焼き魚の焼き具合も、大将の指導をきちんと受けてきたからなんでしょ?
真っ直ぐに、素直に…。
この店の「みどり」の色を守り継いでいる。
この瞳がなくなるくらい、くしゃっとした笑顔のあなたも好き。
真面目で、熱心で…。
「いつまで、食ってんだよ」
私の頭をコツいて、いつまでも笑う。
私なんかで、こんなに笑ってくれるのが、私は嬉しくて溜まらない。
「永田さんが、あんなに入れるからだよぉ」
コツかれた手をどけた。
すると、どけたその手を永田さんが掴む。
えっ、あの…。
また、静かに少しの間が空く。
「おまえってさ…」
…何?
それを遮るように、店の電話が鳴る。
「いや、何でもねぇ」
そう言って、私の横を通り過ぎて行った。
今、私を見て何を言いかけたのだろう。
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