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「………それで、あんなことをしていたと」
「おう……」
バカだ、コイツ。
この話を聞いて、そう真っ先に思った。
そのときの恐怖が蘇ったのか、原田はブルブルと震えだし、そして目の縁に涙を溜め始め。
ドバァと滝のような涙を流した。
見た目イケメンが眉を下げて涙をドバドバ流しているこの光景は……何とも気味が悪い。
「でも、原田さんいなかったよ?俺が最初に探しにきたとき」
「そんときはきっと……中の仕事をさせられてたんだ。なんてタイミングの悪いヤツなんだお前は……っ!!」
「え、俺のせい?」
勝手に人のせいにされても、元凶が原田なことには変わりはなく。
ただ、土方の頭のネジは数本ぶっ飛んでいたことしか証明されなかった。
拝啓、土方さん。
あなたはやはり、地味にバカなようです。
「俺、呑んだ分を働かなきゃ帰らせてもらえねぇんだけどよぉ………ふたりが来たからにゃもう安心だ!!早く帰ろうぜ!!!」
パァァァアと嬉しそうに言う原田。
雪菜はそんな原田をジト目で見たあと、頷いて言う。
「そうですね。山崎さん、帰りましょうか」
「そうだね」
「って、ちょいちょいちょい!!!俺は!!?俺は連れてってくれねぇの!!?」
「呑んだ分を働かなきゃいけないんでしょう?原田さんがどんだけ呑んだのかは知りませんけど、原田さんの尻拭いをするなんて絶っっ対嫌ですから」
「自業自得ってやつだよ、原田さん。頑張って」
「お、おい!!俺たち仲間だろ!!?」
「今だけはそれを全力で否定します」
ニッコリ笑ってそう断言し、雪菜と山崎はスタスタと屯所へ帰って行く。
後ろから原田の叫び声が聞こえるが、気にしない。
気にしたら負け、ってやつ?
「雪菜ぁぁあ!!!山崎ぃぃい!!!助けてくれぇぇぇぇえ!!!!」
そんな原田の叫びもむなしく……ふたりはさっさと帰ってしまう。
その背中に向かって伸ばした手は、しばらく空をさまよっていたが……。
ふたつの背中が見えなくなると、ガクリと雪の上に落ちた。
それからしばらくの間、原田は屯所に帰ってこなかったという。
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