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どこからか、うぐいすの鳴き声が聞こえた。
しんしんと降っていた雪も、いつのまにか消え去り、代わりに暖かな日差しが注ぐようになっていた。
ここ新撰組に来てから、たくさんの季節が巡った。
そしてまた、春がやってきた。
やっと布団から出るのが億劫じゃなくなり、仕事にも力が入るようになった。
……いや、いつも真面目だよ?
だけど、ね?
ほら、寒いとやる気がなくなるっていうか……力が抜けてくっていうか……。
「つまり、仕事をしたくなかった、ってことだな?」
「そういうことです!!……………え?」
ついつい返事をしてしまったけど、よく考えれば何かがおかしい。
しかも、とっっっても嫌な予感……。
ギギギ……と錆びたロボットのようにぎこちなく振り返ると、ニッコリと笑顔を浮かべた土方が立っていた。
ご丁寧に、青筋のサービスつきだ。
……てか、いつのまにそこに!!?
「ひひひひ土方さん!!!いいいいつからそこにいたんですか!!?」
「さァ、どうだろォな?っつか、んなこたァ、どうでもいいんだよ」
あああ………目が笑ってないよ!!!
でも、顔は笑ってるよ!!!
そのアンバランスすぎる笑顔は止めてくれよ!!!
「てめェ……寒いからって仕事をしたくねェとは、ずいぶんと偉くなったなァ?雪菜様?」
「ちちち違いますよ!!!ただ、ちょっと力が入らなかっただけで、決してしたくなかったってわけでは……」
「結局ちゃんとやってねェってことだろォが!!!」
────ゴンッ!!!
「いだぁ!!!」
土方お得意のゲンコツが、雪菜の頭を捕らえた。
痛々しい音と雪菜の悲痛な声が、廊下に響いて消えていく。
「春になったからな、たっっっぷり仕事してもらうぜ?雪菜様」
「『様』とかムダにつけないでぇぇえ!!!これからちゃんと仕事するから許してくださぁぁぁぁい!!!」
ズルズルと引きずられていく雪菜を助けてくれる人は、この場には存在せず……。
哀れ、雪菜は鬼の巣へ連れ去られていった。
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