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雪菜と別れた沖田は、護身用につまようじを持ち、テクテク歩いていた。
楽しむ、と言っても、いざ楽しもうと思うと、そう楽しそうなことは見つからなくて。
だからといって、もとの体に戻るということはしたくない。
こんな貴重な体験、そうそう出来るものではない。
「どこに行きましょうか」
道場にでも行こうか?
でも、この時間帯はまだ稽古の時間じゃない。
それに、確か今日は10番隊が稽古当番だったはず。
落ち着きのない原田のことだ、きっと踏みつぶされてしまうだろう。
それだけは避けたい。
土方の部屋に……ここからだと遠くて、着く頃には夕方になってそうだ。
「どうしましょう?」
つまようじを持ち直してそう呟く。
何だか、一寸法師になった気分だ。
ここでお椀に乗れば、尚更そう見える。
今度、近所の子どもたちとやってみよう………そう思ったとき。
「……これは──」
ふと、近くからそんな声がした。
これは……斎藤の声だ。
よくみれば、ここはちょうど斎藤の部屋の前だ。
「……そうだ」
ニヤリ、と黒い笑みを浮かべた沖田は、その部屋の障子を破り、こっそりと中へ入っていった。
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