第三章

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「慶臣。徳川様に会う前に顔を隠せ。我らの素性がばれぬよう忍びのように振る舞え」 「…………」  突然、大誠の足が止まると、険しい顔付きで注意された。慶臣は言われた通りに白い布で顔を目元まで覆う。忠義を交わしていながら、主君にさえ気を緩まない証拠だろうか。  味方だと思うならば、顔を隠すことなど無意味だろうに。 「徳川様。只今戻りました」 「……大誠か。現状を報告しろ」  大誠は慶臣が顔を隠した事を確認すると、とある部屋のまで跪いた。その部屋の中は淡い光に照らされ、人の影が障子に映し出されていた。顔こそは見えないものの、返ってきた声はとても低く威圧感があった。  影は障子の方を向き、扇子を閉じては開くという動作を繰り返していた。扇子が閉じるパタン、という重い音が、今は何故だか緊張を仰ぐ音にしか聞こえなかった。 「はっ。伝説の呪われた刀『龍黒刀』と『白龍刀』は依然として我が手に入らず、それどころか、使い手である姉弟を捕まえるのにさえ手間取っている状況にあります」 「何を馬鹿な! たった二人の人物を捕まえるのに何をやっているのだ!? いっその事、刀だけでも奪えば良い話ではないか。黒龍が宿る龍黒刀があれば、どんな戦でも勝つことができ、幕府に刃向かう愚か者を薙ぎ払うことが出来るのだぞ。それに加え、白龍が宿る龍白刀があれば、目障りな妖どもを簡単に始末出来るではないか。なのに、たった二人の姉弟を捕まえるのに手惑うなど……。民に知られたどうするつもりだ! 人間が妖如きに敗北を強いられるなど言語道断だ! もっと霊神を強化したらどうだ!? 噂によれば、京都の新撰組も内部で裏切り者が出ているそうだぞ? 全く揃いもそろってお前達、新撰組には頭の悪い連中しかいないのか! 所詮、京都の新撰組は武士になれない者の集まり、こちらの裏新撰組は人から見放された集団に過ぎんな」 「……申し訳ございません。我らも必死に探しているもので、今しばしの辛抱を。徳川様に刀が手に入った暁には、霊神の当主も若き者へと変わりますゆえ、今のうちに時期当主をご紹介しとうございます」 「何? 姿をみせよ」 「はっ。失礼します」
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