第三章

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 障子の向こうにいる徳川は、文句を言いながら新撰組そのものを責めた。自分達の味方まで責めるとは、呆れて物も言えない。民の治安や秩序を将軍の代わりに守っているのは、新撰組達だろう。それなのに、多少の失態でここまで言われる筋合いはない。  慶臣は徳川の態度に不快さを感じながらも、大誠が障子を開けると同時に頭を床に付ける。床に触れる手は自然と拳を握る状態になっている。言い返せない苛立ちと、ここまで言われたことに悔しさを覚える。 「そいつが次期当主か?」 「はい。名を慶臣、姓を雷堂と申します。慶臣はまだ、二十三と歳が若いですが、頭の切れるものです。慶臣、徳川様に挨拶を」 「……慶臣です。以後、お見知りおきを」 「ふむ。期待しているぞ。もう良い。下がれ」 「…………」  徳川に指示を出される大誠は、再び障子を閉めた。それと同時に、慶臣も顔を上げて姿勢を正す。未だ、拳は握られたままだ。瞳もきつく鋭くなっている。 「大誠。反幕府の連中の動きはどうなっている?」 「はい。今の所変わった動きは見られません。ですが、京の方では坂本が動き出したとの情報もあります。徳川様がおっしゃったように、新撰組内でも裏切り者が現れたとのことです。近いうちに、過激化することでしょう」 「大誠。なんとしてでも刀を手に入れろ。幕府を維持にするためにも、多少の犠牲はつきものだ。あの姉弟が刀を渡さぬというのなら、殺しても構わぬ。刀の使い手など、いくらでもおるわ」 「!?」 「承知しました」  徳川の言葉に耳を疑う慶臣。つい体を前に乗り出してしまう。障子を突き破りたい衝動に駆られるが、大誠から発せられる殺意と狂気に動きが止まる。喉まで声が出かかっているのだが、大誠の圧力には勝てなかった。
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