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「美晴姉さん、大丈夫?」
「平気……。琉衣は? 怪我はしていないか?」
「僕も大丈夫だよ。奴ら、間違いなく妖怪だったよね。僕達、気配を完全に消していたはずなのに……」
「愚問だな。あ奴ら、この刀の性質に気付いたのだろうな。人には普通の刀に見えても、妖には異様な妖気を纏っている事が分かってしまう。こんな刀、渡せるものなら、快く渡してやるのに……!」
「美晴姉さん……。そんなこと言わないで」
美晴は、表情を歪ませて皮肉を漏らす。
琉衣は、そんな姉を宥めながらも苦し紛れの気休めを口にする。琉衣自身、そう思うこともあったから。
琉衣は擦り切れた布に包まれた、古びた刀に手を触れた。その仕草に合わせるように、カチャリと小さく刀が鳴った。琉衣が刀に触れたと同時に、美晴が自分の刀に視線を移す。琉衣と美晴がまなざしを見交わしたまま、互いの刀を握りしめた。
姉弟が手にした刀――。
今見れば、その刀の異様な雰囲気は人でも解る。
琉衣が持つ刀は厳めしい気を放ち、鞘は白く、また簡単には抜けないように数珠が持柄と鞘に巻き付いていた。美晴が持つ刀も布から見えるのは黒い鞘で、琉衣同様、鞘と持ち手には数珠が巻き付いている。
まるで、刀自身が己を縛めているように。
琉衣は、美晴の顔色をうかが窺った。
彼女の黒く染まった大きな瞳には、薄っすらと涙が滲んでいるように見える。涙を見せないためにか、ふっと長い睫毛(まつげ)が瞳を隠した。美晴の整った顔立ちは、ただ通り過ぎる者でさえ度々魅了してきた。透き通るような白い肌、大きな瞳、高い鼻筋、まだ少女の色を残していたとしても。
ひとたび笑めば、千金の身代も手に入る美貌を持ちながら、弟の琉衣にしか笑顔を見せたことがない。顔立ちばかりに惹かれる者は、彼女が深く心を閉ざしていることなど分かりはしない。今もって琉衣以外、誰も信用することはなかった。
一方、弟の琉衣は真っ直ぐな黒髪を首元まで伸ばし、美晴同様の黒くて大きな瞳を鋭く光らせて、周囲を警戒していた。着ているものは粗末なものだが、整った顔立ちは姉にも負けないほどだ。
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