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「美晴姉さん、足元気を付けて」
「分かっている」
周りが見えなくなったことで、琉衣の意識も高まる。周囲を警戒していても、美晴を気に掛けることに変わらない。握る手に力を籠める。
その時――。
「ニン……ゲン……ッ! タベル……。オレタチノシゴト……」
「ガァァアア!」
「ウガァァアア……ッ」
妖(あやかし)の地を這うような低いが聞こえる。隠れていた月が姿を現した。
血に飢えた眼でこちらを捉える妖(あやかし)の姿が三匹。琉衣は発音のおかしい言葉を話す妖達に、訝しげな瞳を向ける。布に包まれた白い刀を、妖の目に触れないように背後に隠す。
妖達はどれも人の形をしてはいない。
妖怪の中では人の血の味を知ってしまい、飢えているものもいる。琉衣の目の前にも二人を食らおうとしている妖がいた。このままでは、妖に殺されるのも時間の問題だ。
「そこを退け。退かぬなら斬るぞ」
琉衣は厳しい口調で妖達に告げた。
闇夜に光る彼の双眸は、獣同然。妖に隙を与えまいと、鋭い瞳が威嚇している。
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