第二十八話 守るべきモノ

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「うっ、きゃあ!?」 「………っ!」 「んだこりゃあ……っ!?」 「うぎっ、うおおおおおお!!!!?」  上で戦乙女と争っている者も、戦乙女も、吹き荒れる魔力の波動を受けて身を固め、目を開ける事すら困難な状況に陥る。嵐を前に蹲る、矮小な虫けらの如く。  これが半英雄を超えし者、限りなく英雄に近しい準英雄の力。ラウル・ラックシード・ダインは法国最高戦力にこそ名を連ねていないが、その実力は恐ろしいまでに凄まじく、【天使の塵】の中でも最上の部類に位置している。  上の事など意に介さず、撃滅を睨み据え。  【灰塵】が、詠唱を紡ぐ。 「天空よりも高きに座し、地を這う穢れを見下ろす存在(もの)よ。穢れなき汝の名に於いて、我ここに誓わん」  歌うように、謳うように、言の葉を連ねる。 「空よりも高く、海よりも深く、大地よりも広い慈悲をもって、汝の敵を滅ぼすことを」  灰色の魔力が燃え盛る劫火の如くラウルの身体を覆っていく。覆う魔力の圧によって身体が軋み、痛みを感じても猶、詠唱は止まらない。 「我求むるは穢れを灰塵に帰する力。汝に仇なす愚かな穢れを塵と化すその力を、どうか我に授け給え」  ラウルの右腕が灰色の灼熱を纏い、左腕に同色の雷撃が絡み付く。並々ならぬ勢いで荒れ狂う魔力の波動を身に纏いて、灰塵の瞳が鋭利に輝く。心の臓腑を抉り取る、刀剣の鋭さを伴って。 「混合属性第八階級魔法【灰と為して、塵と化せ(アッシェ・シュタウプ・シュテルケン)】」  髪も、眼も、肌も、服も、それら全てが灰色に染まる。  燃え尽きた灰色に、塵と化した灰色に、色が変わる。  混合属性第八階級魔法【灰と為して、塵と化せ(アッシェ・シュタウプ・シュテルケン)】。上級の身体強化魔法に属するこの魔法の効力は、触れた物を灰と為し、塵と化す。  第九階級魔法【万物を塵と化す天使長の息吹】よりは塵と為す速度は遅いにしても、触れ続ければそれだけで、対象は問答無用に塵となる。  単調な攻撃魔法でこいつは殺せない、対魔法に特化した大剣のせいで。ならばもうこれしかない。確実に殺す為に、攻防一体の強化魔法を駆使して、撃滅を殺す。 「あなたのお好きな近接戦です」  一足跳びで距離を詰め、視界を失った撃滅の眼前に止まり、小馬鹿にしたようにそう宣う。 「──────塵となりなさい、撃滅のリュースさん」  
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