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「ここだっけ? 獣だらけのダンジョンってさ」
元ネイズのダンジョンに侵入する、一組の男女。
「そうそう。めぼしい素材はないけど腕慣らしにはもってこいの場所なんだって」
「へー」
ドールギ王国出身のまだ若い2人の冒険者、彼等は駆け出しの冒険者だ。先輩からの教えに従い、腕慣らしをしに此処にやって来た。
紅髪の男性の腰に下げてある剣はまだ真新しい、使い込んでいないのが見て分かる。しかし一流の冒険者を目指しているのか、軽口を叩きながらもその目には強い光りが灯っていた。
まだまだ半人前だが、確かに。
「でも油断しちゃだめだよ? フィンはまだ半人前なんだから」
「ラキナだってまだ半人前だろうが。お前こそ油断すんなよな」
ラキナと呼ばれた少女。彼女の手には魔法の威力を底上げする杖が握られていた。
特殊な作り方で製造されるこの杖だが、彼女の持つこれはさして高価なものではない。
新米冒険者である彼等には高価な武器を買える程の蓄えはないのだ。
「……なんか不気味だね。リアさんの話とちょっと違うかも」
洞窟内に漂う異様な空気を察したか、ラキナは辺りを警戒する。
「確かに、な。魔物も全然出てこないし……気味悪いぜ」
このダンジョンに入ってからまだ20分と経っていないが、未だ魔物に出会っていない。
聞いた話によると、一階層には矮小な魔物がいたと言われた筈なのだが。
「フィンどうする? 今の内に帰った方が……」
「駄目だ駄目だ。せっかくここまで来たんだぞ? 手ぶらじゃ帰れないっての」
いち早く一人前の冒険者になりたいフィンと、異様な空気から逃げ出したいラキナ。
今の内に帰っていれば、彼等はあの“恐怖”と対峙しなかった。
「大丈夫だって、何があっても俺が守ってやるからよ」
「……うん。ありがと」
互いに頬を赤らめる彼等を待ち受けるは、初めて相対する圧倒的恐怖。
運命は残酷だ、不条理に満ちている。
彼等もきっと知るだろう。
このダンジョンのマスターは、不条理の体現者だと。
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