25848人が本棚に入れています
本棚に追加
「その袋はなんだ、一体何が入っている」
一言一句はっきりと、恐怖に呑まれる男に確実に伝わるよう言葉を贈る。
「ひぃっ!? あ、あ、あっ!」
例え言葉が通じていても意味が無い、あまりの恐怖に呂律が上手く働かないのか。
それとも、脳が今起こった出来事を処理出来ていないのか。
「まあいい、見れば判る」
血に染まった地面を歩き、綺麗に袋のみを剣で切り裂く。
そこから出て来たそれは、クロニアの想像していたものとは少しばかり違っていたもの――。
既に息絶えた、1人の少女の。
あられもない遺体だった。
「……」
年齢はまだ十代半ば、生前ならば美しかったであろう紅い髪は今は色褪せ、血の色によく似ている。
必死に抵抗したのだろう。きつく縛られている両の手首には血が滲み、皮膚が裂けていた。
死する最期の瞬間迄泣いていたのだろう。物言わぬ哀れな死体の閉じられた目から、一筋の涙が流れていた跡があった。
冒険者とは違い、常に死と同居している者とは違い、この少女は普通の女の子だったのだろう。私服であろうピンクの衣服は破られ、素肌が顕になっている。
戦争時ならまだ判る。侵略した街の女子供を凌辱したのならまだ判る。常に死と隣り合わせの冒険者などなら殺されてしまったとしてもまだ判る。
だがこの子は違う、ただの普通の女の子だ。殺し殺される世界とは無縁なただの女の子。
それを攫い、襲い、凌辱し。剰え何処ぞの変態に売り付け金銭を稼ごうとするなど、気分が悪くなる。
(人の事をとやかく言える程、自分を善人だとは思っていない)
しかし、許し難い。故に、許し難い。
(嗚呼、だからこそ、それ故に。俺はこいつを――)
――殺したくて、堪らない。
最初のコメントを投稿しよう!