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騎士が影に潜み、大広間に静寂が訪れる。僅かな物音も聞き逃すまいと耳を澄ますヴァルグの耳に届いたのは。
―――ピシッ。
誰かが何かを引き裂き、その何かを砕く音。
「喧しいンだよォ……! ギャーギャーギャーギャー喚きやがッてよォ!!」
鼓膜を強く刺激する何者かの怒りに満ちた声。その声の主をヴァルグは知らない、それは影の騎士も然り。
だが騎士は感じた、称号によって高められた己の力が徐々に和らいでいくのを。
称号――騎士の誇りは1対1の場合にのみ発動する能力だ。だからこそこの状況に於いては発動しない。
『ぶち殺すぞォッ! クソッタレがアァァ!!』
非常に強固で巨大な繭を破り、内から同胞が現れた。これはもう1対1ではないのだ。
「何なんだ、こいつはよお!」
繭の中から現れたのは、キシキシと響く金属音にも似た音を奏で出す甲皮に包まれた、巨大な蜈蚣(ムカデ)。
死神の鎌を連想する鋭利で巨大な大顎、数を数える事が億劫になるほどの量を有する節足。
キラーワームと比べて平たい身体だが、全長は軽く凌駕する。
堪らず火炎を放つヴァルグ、恐怖を感じたが故の防衛本能であったが。
『熱ィだろオォォがアッ!』
この蜈蚣にはまるで意味が無かった。
広範囲に燃え盛る火炎の波を掻き消す尾の一振り。鋭利なトゲが生えている刺々しい尾によるその一振りは。
「ぬぅあ゙あッ!?」
全てを引き裂き抉り取り、破壊と苦痛を与える一撃。
黒の輝きを発する金属にも似た甲皮に付着する紅い液体。肉の欠片までもが付着し、喧しい敵に深い傷を与えたが。
蜈蚣の怒りは治まらない。
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