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何の狙いも何も無く、ただ乱雑に尾を振るう。これは怒りを発散しているだけの行動だ。敵を敵と認識せず、安眠を妨げた者に怒りを向けているだけの行動。
ただそれだけの行為により、ヴァルグの命の灯火は徐々に勢いを失っていく。
生まれたばかりの新種の魔物が経験ある冒険者を圧倒しているこの状況。
この有様を造物主が見ていたらきっと喜んでいただろう。
「ぐ、おおらぁぁあああッ!!」
それは冒険者としての意地か、それとも仲間を殺された怒りか。
この危機的状況にて、ヴァルグは冒険者として又ひとつ強くなった。
上級の火属性魔法を、詠唱無しで発動出来たのだ。
吹き荒れる火炎の竜巻、とぐろを巻く大蛇のようなそれはヴァルグの全身を包み込む。膨大な熱気が、熱量が、大広間に充満していく。
蜈蚣の表皮が僅かに焦げ、若干変色したかのようにヴァルグの目に映ったその刹那。
「――――」
キラーワームの死骸の影に潜んでいた影の騎士が、ヴァルグの背後に音も無く移動し。
無防備な背後から、心臓に剣を突き立てた。
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