0人が本棚に入れています
本棚に追加
結局、都市に間に合わず野宿をすることになってしまったが…シリウスは嫌がるどころかこの一時を楽しんでいた。
「シリウス、辛くないか」
「なぜ?楽しいですよ」
そんなふうに笑顔で言われると、顔が綻んでしまう…俺は彼女のペースに乗せられっぱなしだ。
シリウスは子供に負けないくらい好奇心旺盛な、健気な女性である。不思議な女性だ…周りの人間を穏やかな気持ちにさせる。
…彼女と居ると、調子が狂う。
「北斗はなぜ、イスナティアへ行くのですか?」
「…好奇心だ」
出来れば面倒なことには巻き込みたくない…もう巻き込んでるかもしれないが。
イスナティアへは元々食料調達が目的だが、その上で闇取引について少し調べるつもりでいた。
何が起こるかすら分からない、何の関係もないシリウスを巻き込むわけにはいかない。
それでなくともこうしていることが一番危険なのだから…
「シリウスはなぜ兵士に追われて?」
気になっていた疑問を彼女に投げかけてみるのだが、表情が曇る…
「…食べ物を買うのに金貨を払わなかったんです」
…つまり食い逃げということか?
俺が瞬時にしてそう思い浮かべると、彼女は慌てて金を持っていなかったと訂正した。
考えてみれば、家出した身で、持ち合わせもない、おまけに武装していて剣の心得もなかった。
「君は貴族の人間か?」
そう問うと彼女はぎこちない感じでコクリと頷いた。
成程な納得だ。貴族の者なら誰でもある日常の家庭内の問題だろう。
俺とは関係性のない問題で、口出しをするのは筋違い、彼女が自身で解決するべきことなのだ。
しかし…何か引っかかるのは気のせいだろうか…?
本当にそれが理由とは思えない…家出ということ事態、嘘…?
思いきって疑問を投げかけてしまおうか?だがそんな事をして、彼女が真実を語るだろうか?
…無理に聞いても仕方がない、知る必要もないだろう。
そう思いながら、いつの間にか眠ってしまったシリウスを暫し見詰めてから眠りに落ちていった。
最初のコメントを投稿しよう!