復讐*rebenge

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背を向けた肩が揺れ強張った。 監視二人の会話に聞き取れたのは僅かだったのだが、唯一名前だけがはっきりと聞き取れた。 暫し重い沈黙だけが続いたが、破ったのはタイラーさんだった。 「…すばらしい才能を持ってて、みんなから慕われていた」 背を向けたまま話す彼女は、表情は分からないが、辛いはず…親しい仲だったはずだ。 「彼の婚約者であり、私の親友だった。それが誇らしかった」 次第に声が霞み、声が震え出す…それでも話してくれる彼女に、罪悪感を覚える。 戦争で使われた大砲の流れ弾が街に落下して、多くの人々が死んだ。その中に彼の婚約者もいたそうだ… 所持者は貴族の者で、科学者らのミスで、内部事故が発生したために起こった事らしい。 …憎むのも無理ない、大切な人を軍事のせいで奪われたのだから。 話終えると彼女はひとつ溜め息を溢し、こちらに向き直る。 「前は、あんなに冷たい人じゃなかったのよ」 彼女の目は悲しみに満ちている…親友をなくし、彼の心を変えてしまったんだ。 「さぁ行って!長居は無用よ」 彼女に背中を押され、促されるままに彼女と別れたのだったーー… 暫く歩くと、唐突にシリウスが立ち止まる。 「どうした?」 彼女は振り向いて、躊躇いがちに視線を泳がせたが、意を決したのか俺を真っ直ぐ見詰めて言う。 「…このままで、いいんでしょうか」 彼女の言いたいことは分かってる。しかし俺たちが言ってどうできるわけではない。 彼女も酷いめにあったはずだ、銃を突き付けられて揚げ句に殺されかけた。そんな所へ連れ戻りたくはない。また傷つけてしまったら… ーー…いや、逃げているだけだ。人を傷つけることを恐れているのではなく、傷つくことを恐れている。 シリウスを理由にして、自分は逃げてるだけだ…責任を負うのが恐いだけ。 「君も酷い目に遭ったろう」 心配だと言っても、彼女だって危険なのは分かってるはず、なのに、あえてその中に入ろうと言うのか? 曇りのない、信念を持った瞳が俺の姿を捉えた。まるで自身の弱い姿を、写されているようだ。 「私は逃げ出したくありません!」 彼女は言いながら、力強く見詰める…そこまで意志が強いなら… 「…分かった、行こう」
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