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しかし、彼女には止める動機がない…彼女も友人を亡くしている。
「あんただって憎いのなら、なぜ止めたいんだ?」
俺の問いに暫し押し黙るも顔を背けてこう言った。
「…シーアは復讐なんて望んでないはず」
復讐は何も生まない。悲しいだけ…
彼女はそのことを分かっていた。そしてそれは、彼が一番分かっているはずだ。
「頭では分かってるのよ…感情がついていかないだけ」
亡き婚約者と、向き合わなければならない事が彼には苦しい事かもしれない。しかし人とはそういうものだ。
気付かせてやることが出来るのは身近な人間、彼は今、闇に捕らわれている。
「…俺に引き受けさせてもらえないだろうか」
伏せていた顔を、ふと持ち上げた彼女は少し目を見開いている。
隣でシリウスも驚いた様子を伺わせるが、彼女の方は見ない。
「彼には今あんたが必要だ」
その言葉の心意を見出だせないのか、眉間にシワを寄せる彼女に次にこう告げた。
「愛しているんだろう?」
俺の言葉に思いもしなかったのだろう、目を大きく見開き瞳に宿る光が微かに揺れている。
何か言いたそうに口を動かすが何も言わない。顔を背けて目を閉じると、不意に繋がれる。
「そうね、好きよ?」
切な気にはっきりと言い切った彼女の表情は、どこか悲しみを感じ、彼を諦めてもいる。
「…本当に、彼を救える?」
「…大丈夫だ、きっと」
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