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悲痛な声で、彼を止めようとするタイラーさんは仲間に阻まれて成す術がなく、ただその場にいるしかできない。
俺やシリウスも、彼らに武器を向けられていて身動きがとれない、だがこのままでは彼は…どうすれば…
考えている間にも馬車に接近していく彼等は、まず護衛を消すようだ。多少の手荒は避けられないか…
やむを得ず、周囲の敵を素早く気絶させたあと、急ぎ馬車の所へ向かうのだが…
馬車の反対側で、血渋きが上がったのを見て立ち止まる。シャルの仲間が斬られてしまったようだ…
そこからゆっくりと姿を現すは、朱き鎧の鋭利な水色の瞳…頬に浴びた血は、金色に輝く髪をも塗らしていた。
「サイモン…!」
驚きの声とともに振り返ると、シリウスがそう言った。
知り合いかと尋ねると、彼女は口ごもってしまう。少なくとも面識はあるようだが。
「どうした、サイモン?」
馬車の中から声が聞こえ、彼の傍らにもう一人黒髪の人物が現れた。
そしてその男とシリウスは互いに目を見開き驚きを隠せずにいた。
「シリウス?!お前何して…!!」
彼もまた彼女の事を知っているようだ、シリウスは二人と面識があるらしい。
彼女は男の問いに返答を返せないでいる…答えられない理由があるのだろうか?
「国を纏める、一国の王女ともあろう者が何をしている!」
ーー……なに…?
どういうことか、問い質すと顔を背け黙りこんでしまう。
その様子に、何かを察したように黒髪の男は不適に笑い鼻を鳴らした。
「知らないのか、お前も随分、酷な人間だなシリウス」
皮肉じみた言い方で彼女に近寄ると、男は彼女の腕を引っ張り馬車へ向かおうとするが、シリウスが抵抗する。
「フランシス!待ってください!」
帰るわけには行かないと拒否している彼女に構わず、連れ帰ろうとする彼に彼女がどんな存在か問うた。
彼女はラスヴァンダという城の王女だと言う…彼とシリウスは婚約していて、本来行うはずだった式は、彼女が行方を眩ましたため延期となった。
ならば戻るべき所へ帰るべきだろう…なぜ彼女は帰りたくないんだ?
「貴方は分かってない!これでは敵の手中に入るだけです!!」
彼女の言っている言葉に、何か謎が掛かっている…知りたい気持ちもあるが、俺が口を挟む事ではない。
彼もまた、彼女の言っている意味が分からぬようで、眉間にしわを寄せて聞く耳を持たない。
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