冷厳の国

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「手配発行までは2週間から1ヶ月くらいはかかるでしょう。気長にお願いします」 重い腰を上げるように、エイハブも立ち上がった。 「やあやあ、君たちは帰らないのかね?」 次のデイトの標的は、ベンハルトだった。 彼もまた、石の身体を動かすかの如くゆっくりと席を立った。 「心配無用ですよ……」 「君みたいな若い者が南の総監になれた理由はなんなのかね?実力?国民の支持?」 デイトは、問答無用の問いかけをためらいなく投げつける。 思わず漏れたような短い笑いとともに、ベンハルトは顔を上げた。 微笑している。 「実力……支持……。どちらも正しいとも間違いともいえますかね。さらにいうなれば、あくなき野望とでもいいましょうか」 「野望……?」 「ええ……。まあ、ね。お先に失礼しますよ」 ベンハルトが部屋を出ていき、後をゆっくり追うのは赤髪の女性だ。 その女性が入口から消えるくらい、デイトが呼び止める。 「君らはさ、あれだ」 ぴたり、女性は足を止めた。
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