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「結局、彼は帰ってこなかったのよね……」
しかしレリアには、彼女の声は不思議なくらいにはっきりと届いた。
どきりと、心臓が跳ねた。
怜人の話題が出たのは、本当にいつぶりか覚えていないくらいで、まったく準備のない事だった。
この半年強、誰もがその話題を避けくれていたからだ。
だから、怜人を思い出す事も少なくなっていた。
そしてレリア自身も、極力そうしないようにしていた。
だが、今、唐突にそれは帰ってきた。
レリアの脳裏に彼との思い出が蘇ってくる。
もう、止められなかった。
髪の毛を振り乱して頭を振ってみても、これは決してどこかへ飛んでいきはしないと思った。
次々と思い出される過去と同時に、感情の波が押し寄せてきた。
こらえきれなくなって、行き場をなくしたその感情は、レリアの瞳からこぼれ落ちた。
「レリア。……ごめんなさい」
レティシアが目を見開いて慌てて立ち上がり、即座にレリアのそばへ寄った。
彼女のお腹の辺りがレリアの頬に触れた。
レティシアはそのまま、レリアの身体を抱いてくれた。
暖かい感覚が伝わってきて、思わず身体の力までもが抜けていった。
「大丈夫よ。お姉ちゃんはずっとあなたのそばにいるからね」
レティシアは、子供をなだめるかのように穏やかにそう言ってくれた。
それでも、いつまでもレティシアに甘えている訳にはいかなかった。
彼女には彼女の人生があるのだ。
レリアは、優しい姉の腕の中で、何か重大な決断を迫られているような、そんな気がしていた。
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