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宿の部屋に1枚だけ、壁からかけてある鏡の前に立つと、見慣れた顔が映っていた。
皆はなぜか、ひとめ見てこの顔を誉めてくれる事があるけれど、それも今はなぜだか堅く無愛想に見えた。
きっと、緊張しているのだろうと思った。
緊張で強張っている。
それも当然だった。
ここは、誰もが恐れをなす国なのだから。
ひとたび外に出れば、どんな危険があるかわかったものじゃない。
すると自然に、力が入るのだ。
だから、こんな堅い表情になってしまう。
さらにまじまじと鏡を覗き込んだ。
他に変わったところといえば――。
「ちょっと、のびちゃったかな。髪の毛……」
自慢の、という訳ではないが、最近は少し誇らしげに思えるクリーム色の金髪が――ここは何て言えばいいんだろう――鳩尾とヘソの間くらいまで伸びている。
髪が長くなれば、ウェーブがちょっと目立って見えるみたいだった。
右手で少し、それを触ってみた。
『その髪色、先代を思い出すな』
とそこで突然、声が聞こえてきた。
声の主はすぐにわかった。
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