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人だかりの中心では一人の初老の男が洋梨を切ったような形の弦楽器を弾きながら歌っていた 暫く様子を見る ~♪~♪… 男が演奏を終えると周りからは割れんばかりの拍手がおこった そして男の目の前に置かれている帽子に次々に硬貨が入れられていく 「店の方も見ていってくれ!」 男が楽器を片付け呼び掛ける その声で何人か店の品物を物色する (なるほど装飾品か。) 勿論ノラもそんな中の一人である 「おっちゃん、この指輪ちょうだい!」 「おう、銅板3枚だ!」 「おっちゃんさっきの演奏凄かったよ。」 会計のときに一言演奏の感想を述べる 「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。 ほら、こっちの指輪もおまけだ!」 「お、ありがとう。」 「でもよお、こいつがなかったら俺は今頃生きていなかったろうな…」 遠い目をしながら独りごちる 「俺は元々貴族だったんだ。 だが、屋敷に閉じ込められて来る日も来る日も勉強勉強… 自由なんてものはなかったのさ。 だからな、いつからか『外で自由に生きたい!』と思うようになったんだ。 ある日、その事を父に話したらそれはもう大激怒。 『そんなに自由になりたいなら出ていけ!!』ってな。 売り言葉に買い言葉。 あの時は親父に怒鳴り返して飛び出したよ。」 黙って話を聞くノラを見て男は話を続ける 「だけどなあ、現実は甘くなかったよ。 金なんて持たずに飛び出したから食い物も買えねえわ、スラムの大人達に捕まりそうになるわで思い描いたのとは全く違ったんだ。 それでも帰るのは俺を否定されるようなもんだと思って嫌だった。 結局一ヶ月くらい露天の品を盗んだりして飢えを凌いでいたんだ。」
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