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「…!」
気がつけば、闇はさっきより僕たちにせまってきていた。
(…やばい、どうしたらいい…?)
ここから逃げなきゃと考え、だけどここにいるのは僕だけじゃないことに気がついた。
僕は少女を見る。
少女はまだ眠っている。
「ねぇっ!目を覚ましてっ!」
少女にさわるのは憚られて、僕は声だけを絞りだした。
けれど少女は目覚める気配などない。
―どうしたら目覚めるだろうか?
僕は考えを巡らせ、童話を思いだした。
どんな童話だったかは覚えていない。
ただ、ぼんやりと、ラストのシーンだけが見えた気がした。
―姫は運命の人の口づけにより目覚めるのだ。
この状況でこんなことしか考えつかないことに僕は絶望した。
こんな童話になんの意味があるのだ。
口づけで目が覚めるなんて、童話の中だけで、現実ではありえないことだ。
しかも、姫だとか運命の人だとか、ありえるわけがない。
だけど、このままでは駄目だということはわかっていた。
「…ごめん。」
聞こえていないだろうが、少女に謝った。
眠っている少女の唇を奪うなんて、許されるわけはないけれど。
(…壊さないように…しなきゃ…。)
僕は少女の柔らかな唇に、恐る恐る、優しい口づけをした。
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