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―ギィ…
扉は軋みながら開いた。
「…っ!」
扉の向こうから光があふれ、僕は反射的に目を閉じた。
目をゆっくりと開けて、扉の向こうを見ると、紅い月が見えた。
初めの印象より月は暗く、儚げな光をたたえていた。
扉の向こうもやはり闇で、月のおかげで前がなんとか見えるといった感じだ。
薔薇のような甘ったるい香りは、やはりこちらからただよってきたらしい。
しゃがんで下を見れば、薔薇の花弁が散らばっていた。
血の色の…紅い薔薇。
僕が薔薇を目でたどっていると、漆黒の糸が目にとまった。
僕は漆黒の糸まで歩みより、糸をさわった。
「…これ…っ」
漆黒の糸なんかではない。
これは、漆黒の髪だ。
きっと誰かがいるのだ、ここに。
僕ははっとして顔を上げた。
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