4/9
前へ
/41ページ
次へ
―ギィ… 扉は軋みながら開いた。 「…っ!」 扉の向こうから光があふれ、僕は反射的に目を閉じた。 目をゆっくりと開けて、扉の向こうを見ると、紅い月が見えた。 初めの印象より月は暗く、儚げな光をたたえていた。 扉の向こうもやはり闇で、月のおかげで前がなんとか見えるといった感じだ。 薔薇のような甘ったるい香りは、やはりこちらからただよってきたらしい。 しゃがんで下を見れば、薔薇の花弁が散らばっていた。 血の色の…紅い薔薇。 僕が薔薇を目でたどっていると、漆黒の糸が目にとまった。 僕は漆黒の糸まで歩みより、糸をさわった。 「…これ…っ」 漆黒の糸なんかではない。 これは、漆黒の髪だ。 きっと誰かがいるのだ、ここに。 僕ははっとして顔を上げた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加