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その日、望月幸平は朝から難しげな顔をしていた。
朝食を食べながら眉間にしわを寄せ、歩きながら首を傾げて小さく唸り、『やまと』の手伝いの最中も、客や日向や大和田と話す時はいつも通りなのだが、ふとした瞬間にまた難しげな顔に戻る。
幸平が考え事をすること自体は然程珍しくはないが、ここまで長時間表情に出すのは相当珍しい。
「ねえ…幸平どうしちゃったの?」
流石に見かねた日向が、カウンター席で昼食を取っている朝義に尋ねる。彼が自分から来店することは滅多になく、今日は出先で会ったらしい三郷に連行された為に『やまと』に来ている。
すすった所だったラーメンを飲み込んでから、朝義は幸平を一瞥して首を傾げた。
「さあ?朝顔を合わせた時から、ずっと考え事をしていた。」
「理由は聞かなかったのかよ?」
「緊急じゃなさそうだから、とりあえずは放っておいてる。」
「………」
あっさり答えて食事を再開した朝義に、三郷は何とも言えない視線を向けた。例え同居人であり無二の相棒(と朝義が口に出すことはないが)であろうと踏み込まない朝義の気質が、褒められたものなのかそうでないのかは、三郷には断定できなかった。
「まあ…朝義さんじゃないけど、ずっと考え込んでるってことは、すぐに答えを出さなきゃいけない悩みってわけじゃなさそうよね…」
ため息をついた日向だったが、表情は晴れない。割と何事にも即決即断の幸平が、ずっと何かに悩んでいる姿は、見ていて心配になってくる。
例えば戦いのことや、自身の体のことなど、緊急でなくとも深刻な悩みだとしたら、幸平自身の問題だからと放っておくことは日向には出来ない。
「大きな悩みごとじゃなきゃいいんだけど……」
ぽつりとこぼれた弱々しい呟きは、日向の近くにいた者全員の耳に届き、幸平の耳には届かなかった。
「……幸平、」
その様子に、やれやれとため息をついた大和田が幸平を呼んだ。
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