ポーズと名乗りにおける士気の相互性

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 幸平は、真剣な面持ちのまま、静かに口を開いた。 「……変身ポーズと名乗りがないよね?」 『…………………………』  その言葉に、時が止まった。  痛い程の沈黙の後に、凍結した時間がゆっくりと流れ出す。  数組の客の談笑と、天井付近に取り付けられた棚の上に置かれたラジオから音楽番組が流れているのに、それを上回る乾いた静寂が食堂の一角を支配していた。 「……………は?」  とてつもなく長く感じた沈黙の後、朝義がようやく返せたのはその一音だけだった。その一音だけで時間の流れが元に戻り、幸平が「だって」と続ける。 「俺達、正義の味方…かどうかはちょっと分かんないけど、世界征服しようとしてる悪の組織と戦ってるんだよ?折角変身するんだし、ポーズと名乗りがなかったら成り立たないじゃん。」  妙に気合の入った様子の幸平がそう言い切った後、再び沈黙が流れた。 「え、何お前…ずっと難しい顔してた理由って…それ?」 「…下らん。」 「深刻な顔して何を言い出すのかと思ったら…」 「しょーーーーもなっ!」  二度目の沈黙を破って三郷が微妙な表情で尋ね、朝義と大和田が心底どうでもよさそうにため息をつき、日向が呆れ返った面持ちで言い放った。 「しょ、しょうもなくないよ!」 「しょーもないわよ。少なくとも、そんな半日考え込むような内容じゃないわ。」 「えぇーっ?」  日向の台詞を聞き咎めた幸平が抗議の声を上げるが、あっさりと切り捨てられて不満げに口をとがらせる。 「望月…お前がどこでどうやってその知識を仕入れたかは知らないが、戦いの最中に呑気に名乗る時間なんかあるわけないし、そもそも必要がないだろう。」  そもそも敵の目的は幸平と朝義なのだから、わざわざ名乗らなくても向こうはこちらのことなど知っている。 「じゃあ…変身ポーズは?」 「一番隙が出来る瞬間に余計に隙を作ってどうする。テレビのヒーローじゃないんだ、敵は隙が見えれば当然そこを攻撃するぞ。」  食い下がる幸平に、朝義はにべもなく返した。 「う~……」
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