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長い静寂が訪れる。ただ、タンタンタンと雫の音と、川の音が響く。
きっと何か話すべきなのかもしれなかった。でも、何も話すことが浮かばなかった。だから、何も話せなかった。ときどき、ちらりと青年の横顔を盗み見るだけ。
「あ、雨が止みそうですよ」
青年のこの言葉に、異常なまでに驚いた自分がいた。
「ほんと……」
雨は嘘のようにピタリと止んだ。
空には既に青空が見え隠れしている。
「雨宿りさせてもらって、ありがとう」
青年は、ペコリと頭を下げた。
青年はさっとその場を去っていく。自分もゆっくりと軒下を離れようとする。ほんの少しの雨宿りが、やけに印象深く、遠い過去のように感じた。しかし、心の奥で何かが忘れるな、と懸命に暴れている。
ぱしゃり。
水溜りの跳ねる音。ふと顔を上げると、先程遠ざかった青年の姿がそこにあった。
「ずいぶん道がぬかるんでいるので、気になって戻ってきたんです。
よかったら、家の近くまで送りますよ」
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