転落

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初めて訪れた、こんな田舎町。 私がすんでいた街とはあまりにも違う。 響く車の騒音 ショッピングモール 20階以上の高いビル マンションさえ全て 見当たらない。 ここまで何もないと、逆にすっきりしてていい、なんて思ってしまうほど。 車が通る道だと思われるこの道路も、10分に一度、車が通るか、通らないか。 もしかして歩行者天国? ・・・いや、歩行者天国にしては人がいなさすぎる。 だけど、 そんなことが全く気にならなくなるぐらい、ここは綺麗。 空気がものすごく澄んでて、鮮やかな青が一面に広がる空がある。 道路わきには、たくさんの緑。 生い茂る、その表現がぴったりの緑。 テレビで見たことのある、南国ならではのヤシの木がたくさん。 それから、日差しがものすごく暑い。 蒸し暑い。 べとべとする。 肌にまとわりつく気持ちの悪い風が、私の肌をなでる。 一歩歩く度にじわっと汗がふきだす。 バッグの中から日焼け止めを取り出し、顔、腕、脚、露出したあらゆるところに塗った。 つい、くせで。 もう、白くて細い私なんて必要ないんだよ。 上を上を目指していた、ついこの間とはまるで違う。 いかに自分を磨き、輝けるか。 そんなのもう、どうでもいい。 ここは、私が必死に歩いていた場所とは、かけ離れた場所。 おいて行かれた私は、もう。 戻れない。 コットンレースの真っ白なキャミワンピが、 じわり、汗ばんでいく。 露出した腕が、日に焼けていくのが分かる。 おろした長い髪を手ぐしでまとめ、サイドポニーにした。 「暑い、な」 意味もなく 目的もなく 歩き続ける。 辺り一面、緑だらけのこの道を。 田舎ってまさにこういうところを、言うんだと思う。
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