9人が本棚に入れています
本棚に追加
「...姉は病気でした。雪路さんのせいじゃないですよ」
咲樹さんを見ると、今にも泣き出しそうな顔で俺を見ていた。
「明里が病気になった原因は、俺にあるんですよ。聞いてますよね」
俺は、結婚してから5年くらい経ったあたりから、流れで会社の後輩の女の子と浮気をした。
ちょうど倦怠期に入っていて、二人の会話はほどんどなく、夜もご無沙汰だった。
だから、本当になんとなく。流れでその女の子と寝た。
明里は、きっと直ぐにそのことに気づいただろう。
だが彼女は何も言わず、家で俺の帰りを待っていた。
どんなに遅くに帰ってもリビングで俺の帰りを待っている彼女が鬱陶しく、重たく感じて、時には全く帰らない日もあった。
「明里は、ストレス性のガンに侵されていた。 そのストレスを与えていたのは、紛れもなく、俺だった」
浮気を初めて2年くらい経った時、明里の誕生日くらいは祝ってやろうと早めに家に帰った。
リビングで彼女はアルバムを見ていた。
俺にも見て、と言ってくるから、しょうがなくそのアルバムを受け取った。
そこに写っていたのは、俺たちが出会ってから付き合い、初めてデートをした時から新婚旅行をするまでの数年間の俺たちの姿。
パラパラとページをめくっていく度、その当時の思い出が蘇ってきて、俺は思わず笑っていた。
二人でソファに並んで座り、思い出話をした。
こんなふうに二人で会話を交わしたのは、何時ぶりだっただろうか。
もうアルバムの中にしか残っていなかった明里への恋心が、戻ってきた気がした。
ふと俺はアルバムから目を離し、隣に座る彼女を見た。
そして驚く。
彼女は、アルバムの中の彼女より驚くほど痩せこけ、目の下にはクマがあり、顔色がすこぶる悪かった。
弱々しく微笑む顔の輪郭が、以前より細い。
綺麗に整えられていた黒色の髪は痛み、あの頃の面影はなかった。
...俺はこの時まで、彼女の事なんかまともに見ていなかったのだ。
思わず握った彼女の手首が、昔より一回りも細くなっていて、背筋が凍る。
俺は渋る彼女を車に乗せ、急いで病院へ向かった。
最初のコメントを投稿しよう!