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診断の結果は、悪性の腫瘍…ガン。
...治る見込みは、殆ど無かった。
「ーーたとえ、姉が病気になったのが雪路さんのせいだったとしても、わたし達家族が雪路さんを恨むことなんて、無いですよ」
俺と咲樹さんの間には一定の距離がある。
咲樹さんは俺に歩みよろうとはしなかったし、俺も咲樹さんに近づこうとも思わなかった。
「それに、雪路さんは最後まで姉のそばにいてくれました。それだけでも、感謝しています。姉は愛した人のもとで息を引き取ったのですから...」
明里のガンが発見され、俺は目が覚めたように態度を改め、彼女につくすようになった。
浮気相手とは別れ、大きな病院の近くに引越し、できるだけ彼女の側にいた。
沢山話もしたし、二人の間にできた溝を埋めるように笑い合った。
...それが、俺ができる彼女への償いだと思ったから。
「愛した人...か」
音を立てて降ってくる雨が俺たちを濡らす。
今日の気温は例年よりも低く、雨は昨日よりも冷たい。
互いの服が雨を吸い込み、黒い服が漆黒に染まる。
咲樹さんの栗色の髪が顔に張り付いて色っぽさを醸し出している。
咲樹さんと初めて会ったのは、もう10年くらい前。
彼女は出会った頃に比べて随分と変わった。
いまは明里と同じくらい、大人っぽく見える。
さすが姉妹というべきか、よく似ていた。
俺もあの頃に比べてどれくらい変わったんだろう。
明里と出会った時は、まさか結婚するなんて思いもしなかったし、
明里をなくす日が来るなんて、想像もしていなかった。
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