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放課後、友人を家に誘った際に受けた、悪意無き友の言葉に、僕の心は泣き声を上げていた。
『亮ちゃんとこは、狭いし汚いから遠慮するわ』
『そうそう、亮ちゃんの婆ちゃん、いつもかりんとう出してくれるけど、かりんとうはあんまりやしなあ』
そう言われた途端、かっと顔に血が上ったのが自分でもわかった。それは、苛立ちや怒りとは全く違った、まさしく“羞恥”という感情の一端だった。友人達の前からすぐにでも駆け出して、隠れてしまいたい。そんな思いに苛まれた。けれど、僕は何食わぬ顔を装ってこう言った。
「まあな、あれは婆ちゃんの家で、僕ん家やないし。それに、僕かてかりんとうはあんまり好きやないわ」
極めつけに、友人と一緒にふざけて笑い合ったのだ。
結局、適当な理由をつけて遊びを断った後、「ただいま。」と帰宅した僕。婆ちゃんは、変らず夕飯をこしらえていて、狭い部屋の隅には、洗濯された僕の着替えが綺麗に折り畳まれていた。
心がひどく痛んだ。
早くに両親を亡くした僕にとって、この狭いアパートの部屋は、たった一つの家に他ならなかった。それに、本当はかりんとうは僕の大好物で、婆ちゃんの好物でもあった。
秋刀魚の焼けるいい匂いが漂う。
「ポッポー、ポッポー、ポッポー、ポッポー、ポッポー、ポッポー。」
鳩時計から可愛らしい顔が飛び出し、六回鳴いた。小学校三年生の秋、僕は婆ちゃんの背中を唇を噛み締めてその目に焼き付けていた。
ちくたくちくたく。
ちくたくちくたく。
ちくたくちくたく。
(なんであの時、あんなこと言うてしもたんやろう)
ふとそんなことを考えて、僕はふっと口元を緩ませた。
ぐつぐつと煮える味噌汁と秋刀魚の匂いも、鳩時計の鳴き声も、オレンジ色の夕明かりに照らされた小柄な割烹着の背も、ひどく懐かしく、目を閉じれば昨日のことのように思い出される。
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