修練所(ケンシェル)の決闘

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「あれが貴公がいう『面白い人間』か?」 グラビスは、同僚のケスターと共にテラスから修練所を見下ろしていた。 二人がいる修練所(ケンシェル)は人間専用軍事訓練施設である。 本来なら、メタポタミアンたるグラビス達がいる事自体珍しい事だ。 メタポタミアンの多くは、似通った外見的特徴を持った種族を『人間』と呼び、卑小な存在であると見下していた。 グラビスもその一人である。 実際、メタポタミアンと『人間』と呼ばれる種族を比べると知力、体格、寿命などありとあらゆる面で劣っている。 それは事実であり、常識である。 辞書を紐解いてみても 、『我々に似通った外見的特徴を有した種族。我々を真似た言語、社会体系を持っている為、我々の亜種とする説もあるが、別の祖先から進化した別種説が優勢である』 と書かれている。 彼自身の経験による『人間』の評価自体高くない。 一応『善良』な者がいない訳ではないが、多くは『狡猾』で『臆病』である。 しかし、近年爆発的に数を増やしてきた『人間』を敵対勢力たる『ダサーン』が傭兵として戦力に取り込んだ事から状況が変わった。 なんだかんだといっても戦いは数である。 ましてやダサーン並に『好戦的』種族であれば。 かくして対抗上、メタポタミア側も人間を取り込む事となった。 その『劣等種族』の部隊の中で、最近目覚ましい働きを見せる部隊があり、そこの隊長が人間ながら、なかなか面白いとの評判を耳にしたグラビスは、情報源たるケスターを伴い見物に来ていた。 二人の視線の先で訓練の真最中の部隊に話題の人間がいた。 人間の部隊としては極めて統率の取れた部隊である事は、一目でわかった。 兵の一人一人に至るまで、指揮官の指示に従い、実にきびきびと動いている。 それは正規軍兵士と比べても引けを取るものではなかった。 その部隊を指導している男。 周囲の人間と比べても、細身で小柄の部類に入る体格ながら実に活力に溢れているのがわかった。 それ以上に目を引くのは、その服装だ。 周囲のほとんどがゆったりとした僅かに黄色を帯びた白の修練着の中でただ一人。 純白のルーズフィットの服は、袖口と裾を鮮やかな紅色の紐で絞られている。 特徴的なのは、腰に届かんばかりに伸ばした黒髪で、それは先の方で無造作に束ねられている。 腰帯代わりなのか、腰に巻かれた布は鮮やかな青。
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