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「柚季穂はくやしくないの?」
コトリ、とサラダを取り分けたお皿を置くと、少しだけ顔を上げてチラリと目線だけこっちに向ける先輩。
「くやしくない、といえば嘘になります。でもね先輩、」
そこまでいうと南野先輩は私の話を聞くように顔を上げてくれた。
「浩人と付き合ってるとき、結婚するならこの仕事いつ辞めても良いって思ってたんです。」
モスコミュールを一口飲むと、冷め始めた唐揚げをほうばる。
「付き合ってた時も、仕事に手を抜いてるつもりは無かったですよ。
でも、今日一日仕事していて先輩や後輩たち見ながら新人の頃を思い出して”いつ辞めても良い”って思っていた自分が恥ずかしくなっちゃって。
あ。南野先輩も食べてくださいね。」
手を止めていた先輩にそう言うと意識していなかったのか、先輩もビールに手をかけた。
パンパンに腫れぼったくなった目にぼさぼさの頭、何も考えられない状態を無理矢理シャワーとメイクで仕事用に切り替えて、1日を終えた私の気持ちはこうだった。
「先輩みたいになんでも仕事こなせる訳でもないし、後輩達みたいに必死で仕事覚えようって頑張りも年々薄くなってたと思います。」
いつも、それなりに覚えた仕事をそれなりに容量良くこなしていた。
でも、今日は忙しかったのと浩人のことを思い出したくないのも相まって必死に仕事をこなしていたのだ。
そうしているうちに新人時代のことを思い出した。
はやく先輩みたいになりたくて、分からない仕事はすぐ聞くか調べて、噛み砕いて飲み込むことに必死だった頃のことを。
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