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…は、と我に返った私の目の前にはひどい光景が広がっていた。
紅茶のカップは2つとも粉々、丸い形のラグには大きなシミができていた。
そして、目の前には雪丸君の驚愕した瞳…ああ、とうとうやってしまったんだ。大好きな人の目の前で醜態を晒してしまうなんて!違うの、と私は釈明しようとして雪丸君が微動だにしないことに気がついた。
「雪丸君…?」
私は恐る恐る彼の体を揺すった。どうやら自分は彼の頭を抱きしめていたようだった。ガクンと頭が手前に下がる。
「!!」
そこには真っ赤な歯形がついていた。犬歯の跡には血が流れている。
びっくりした私は咄嗟に掴んでいた手の力を抜いてしまった。雪丸君の体はテーブルに当たって、ズルズルと床に崩れた。
本能的に、瞬時に、私は自分が何をしてしまったのか悟った。ああ…なんてことを…
私はテーブルの上のドーナツに目を奪われたのではない、雪丸君のまあるい…彼の頭に心を奪われたのだ。
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