出発するふたり

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 俺は結婚式場において、新郎の衣装を着せられた所だった。  高校からの付き合いで、途中の何年かは加代がお笑い芸人を目指し大阪に旅立って行っていたので空白はあるものの、こちらに戻ってきてからは六年も同棲していたのだから、そろそろ仕方ないと言えば仕方ないのだが、俺の知らないところで式場を押さえたり、夜中の通販番組で結婚指輪を購入していたと言うことは人としてどうなのだろうと思う。  それを仕切っていたのは俺の母親だったりするのだから、香奈に強くは言えないが、女手一つで俺を育ててくれた母親にも俺は何も言うことは出来ない。  せめてもの救いは嫁と姑の仲が良いと言うことであるのだけど、息子の人権を蔑ろにするような行為には憤りを覚えずにはいられない。  まだまだ結婚する気などはなかったが、いつの間にか恋人である加代と俺の母親に外堀を固められ、年貢の納め時となってしまった。
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