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「ギャン!!」
直後、悲鳴を上げたのは意外にも獣のほうだった。
何者かに吹き飛ばされた獣は、激しく地面に打ち付けられたあとすぐに起き上がると、よろめきながら群れの後方へと下がっていく。
真っ直ぐに伸びた木刀の先端と斎藤兼光の鋭い眼光は、たじろいだ獣の方を依然として見据えていた。
「せ、生徒……会長?」
助けられた女生徒は凍ったままの表情で、顔から様々な体液を垂れ流しながら彼を見つめていた。
「早く後ろに下がるんだ」
獣たちから視線を逸らすことなく、兼光がそう促す。
しかし、女生徒の足腰はとっくに力を失っており、うつ伏せになったまま這うことすらままならなくなっていた。
獣たちは恨めしそうに唸り声を上げて兼光を睨みつける。
それでもなお、下がるどころか前へとじりじりと前進していく兼光。
獣たちがその気迫に気おされて二歩三歩と後退を始めた。
(恐らく少しでも弱みを見せれば一斉に飛びかかってくるだろう。いや、それならまだいい。一番まずいのは一匹だけが僕に飛びかかってきて、残りが他の生徒たちを襲うケースだ。奴らが僕に気を取られている今のうちに皆が逃げてくれれば……)
誰もが頭の中が真っ白になっている中で、兼光は冷静に思慮をめぐらせていた。
さらにはこの状況において、自分以外の人間の命をも損得勘定に盛り込むほどに強烈な倫理観が彼の中には有った。
誰もが信頼する剣道部部長兼生徒会長。質実剛健とは彼のためにある言葉のようだった。
しかし、ひどく冷静な頭の中とは裏腹に、彼の額や首筋からはとめどなく濁った汗が溢れだしていた。
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