天使のラッパは鳴り響く

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『ひゃっははっ! やあ、地球の皆さん、こんにちわ。いきなりで悪いんだけどさぁ、今日からこの世界、俺の物だからぁ!』  もちろんそれは突然ことだった。  天羽春樹(あもうはるき)にとっても、三島朱音(みしまあかね)にとっても、だ。    二人は高校からの下校途中、突如響き渡ったその声に耳と頭を疑っていた。 「ちょっ、なんだよこれは……!」  大音量の男の声が春樹たちの脳を揺さぶり続ける。 『なあ地球の皆さんよ、毎日毎日退屈じゃないかい? 退屈はいけねえよなぁ。生きてる心地がしない。んで、なんで退屈なんだと思う? 人生が上手くいかないからか? 世の中が不安で満ち満ちているからか? ちがうねえ。お前らが退屈なのは、そもそもこの世界がクソゲーだからさぁ! だからさぁ、俺からのささやかなプレゼントを受け取っておくれよ』 「一体、何を言ってるんだこいつは……」 「わ、わかんないっ。けどこれ、普通じゃないよ」  朱音の言うとおり、その声は異常だった。  必死で耳を押さえてもボリュームは少しも下がる気配がない。  まるで頭の中から声が聞こえてくるような感覚。  平和な通学路が一瞬にして混乱の渦に巻き込まれていた。    道行く誰もが頭を抱えて地面にうずくまり、運転を誤った自動車が次々と衝突を起こしていく。 『おっと、ボリュームMAX! だったわ。わりぃわりぃ。これでよーし。あーあー、聞こえますかどうぞー。ちなみにこの放送は、全カ国語同時翻訳でお届けしておりまーす。なんつって』  やっと声が小さくなり二人がなんとか顔を上げた時、猛スピードで歩道に乗り上げた一台のセダンが縁石を蹴り上げて宙を舞っていた。 「危ない、春ちゃん!」  自動車は歩道に激突すると、投げ捨てられたおもちゃのように二転三転しながら春樹たちの方へと突っ込んでくる。  朱音はとっさに春樹の制服を鷲掴みにして地面に押し倒した。  間一髪。  自動車は二人の傍らにあったガードレールにぶつかって再び宙を舞うと、頭上を飛び越してそのままコンビニの自動ドアを突き破っていった。   『それじゃあ、楽しい冒険活劇の始まりだ。皆楽しんでくれよな? ひゃははは』    下卑た男の笑い声が響いたあとで、辺りは耳鳴りだけを残して静まり返る。
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