虹色の雪

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 その後、浩太の指示通りに皆がIFを操作すると、次々と奇跡は起こった。  パンが、肉が、薬が現れた。  菓子や酒、煙草などの嗜好品すらも手に入った。  このとき彼らは改めて実感した。 「この町は救われたんだ。そして、救ったのは僕たちだ」  正義が言うと、それぞれが抱き合って喜び、涙した。  すっかり日は沈み、足元の危うくなった街路を兼光は黙って歩いていた。  体はとっくに悲鳴を上げていたが、その背に感じる温もりを思えば、いくらも苦ではなかった。 「―――かねみっちゃん?」  兼光の背の上で、どうやら健吾が目を覚ましたようだった。 「やあ、おはよう」  兼光は振り返ることも無く、前へ前へと進みながらそう応えた。 「終わった……のか?」  健吾は、ぼやけてしまっている記憶をたどりながら、呟くように言う。  兼光に遠慮して体を起こそうとするも、左肩から先が無くなっているせいで力を込める対象が見つからない。  健吾はこのときにやっと、自分がどうなったのかを思い出したようだった。  ポーションのおかげで出血はすっかり止まり、左肩の断面にはしっかりと新しい皮膚が張り付いていた。  また、ポーションには増血作用もあるため、おそらく健吾は助かった。  しかし、その説明文にあった通り、『欠損』はやはり回復しなかった。  兼光は、大量の血液を一時的に失ったことで何かしらの後遺症が残っていてはいけないと、一足先に健吾を風町病院に連れて行くことにしたのだった。   「ああ、勝ったよ。健吾のおかげさ」 「おおー、やったなあ!」  健吾は精一杯に微笑み、声を余計に弾ませる。  しかし兼光はそれ以上何も言わなかった。  しばらくの沈黙が流れた。 「つらかったな。かねみっちゃん」    不意に健吾がいうと、兼光の肩がわずかに震えた。   「かねみっちゃんの荷物、いくらか持とうと思って頑張ってはいたんだけど、こうして背負われてたんじゃ面目がないや」  健吾がおどけて笑うと、ついに兼光の足は止まってしまった。  健吾はその隙に足を伸ばしてするりと兼光の背中から降りる。 「かねみっちゃんが皆を助けたいって頑張ってるのは、皆もちゃんとわかってるよ。結果がどうなったって、誰も恨んだりしない。つっても、かねみっちゃんはどうせ落ち込むんだろうけどさ」
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