虹色の雪

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 わずかだが、兼光の嗚咽が聞こえていた。  泣かせるつもりはなかったのにと、健吾は頭を掻いて苦笑いをする。  こんなときに自分が女であったら、抱きしめてやることもできただろうが、男同士というのはこういうときに何もできないものなんだなと、健吾はただそこに立ち尽くして月を眺めていた。 「あんまり兼光さんをいぢめないで下さいよ」  不意に背後から聞こえた声に、健吾は慌てて振り返る。  暗がりから姿を現したのは梶浦だった。 「よせよ梶浦、せっかくいいところなんだから邪魔するな」  今度は服部がそう言って梶浦の制服の裾を引っ張るべく姿を見せた。 「なんだ二人ともいたのか」  急に声を掛けられた健吾は存分に驚いたあとで、ため息交じりにそう返す。 「お楽しみの所をお邪魔して済みません。どうぞ続けて下さい」  服部が真顔でそう言うと、健吾はじっとりとした視線を彼らに向ける。 「おい、お前ら。まさか変な誤解をしてないだろうな」 「いえ、お二人が特別な関係だなんてホモってません。失礼、思ってません」 「思ってるじゃねえか!」  健吾は服部に詰め寄ってその頬を右手で掴む。 「大喜多先輩、すんません、こいつはノンケなんで勘弁してやってください」  そうい言って梶浦が健吾を抑えようとすがるが、火に油を注いでしまったのは言うまでもない。 「ほぅ……梶浦まで。いいぜ、俺はノンケだってかまわないで殴っちまう男なんだぜ……」  健吾がその拳を震わせながら言うと、服部は咄嗟に縮地を発動させて姿を消した。 「彰、おまっ―――!」  梶浦が慌てて逃げ出すと、健吾は大げさに声を上げながらそれを追いかけていた。 「―――プッ。あっはは」  兼光がやっと笑ったのを横目に見ながら、健吾は余計に怒ったふりをして梶浦たちを追いかけまわす。  兼光はあちらへこちらへと忙しく飛び跳ねる仲間の影を眺めて、目を細める。  そう、僕はきっと間違ってる。  何一つ失うことなく、何かを得られるものか。  けど、それでも、やっぱり、僕は失いたくない。  世界は変わってしまっても、こうして変わらないものがあるなら、僕はそれを護るために――――  ――――戦う
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