天使のラッパは鳴り響く

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「おい、静かにしろ! 黙れ、黙らんか!」  体育教師が顔を真っ赤に染めながら声を張り上げる。  部活動の真っ最中だった生徒たちは、ユニフォームや剣道の防具などを身に着けた格好のまま校庭に集められていた。  数人の教師が生徒たちを宥めようと奮闘していたが、その言葉に耳を傾ける者など当然おらず、先ほどの『謎の声』の話題で大いに盛り上がっている。  そして騒音のほとんどが笑い声であり、誰もがニヤニヤと頬を釣り上げていた。 「お前ら、いい加減静かにせんか!」  ついに耐えかねた体育教師の薬師寺満(やくしじ みつる)が烈火の如く怒り、剣道部の生徒から竹刀をむしり取ると、その先端が折れ曲がるほどに激しく地面に叩き付ける。 「今、校長先生が警察署に確認を取りにいっておられる! 何が起こっているのか知らんが、こんなときこそ冷静に行動しろ!」  一斉に静まり返る一同。  「冷静になってないのはヤクマンのほうじゃない」  一瞬の静寂のあと、そう呟いた風町美砂(かざまち みさ)に向かって、折れた竹刀の先端が飛んできた。  美砂は頭を寝かせてさらりとそれをよけると、何食わぬ顔でそのまま髪を解かした。 「風町、貴様ぁ……。軽率なのは格好だけにしておけよ!」 「あら、格好だけでも許してくれるんですね」  そういって美砂が短いスカートの裾を掴んでひらひらと振って見せると、黒いラインの入ったストライブのタイツから浮き出る肌色に、男子生徒の目が釘付けになった。  胸元を開けたブラウス、これでもかと瞼から伸びる付けまつ毛。  美砂は鬼の形相で叫ぶ薬師寺の怒声を聞き流しながら、緩やかに巻き上げられた栗色の髪の毛を、ピンク色の付け爪が伸びる指先にくるくると巻きつけて遊んでいた。
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