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「薬師寺先生、今は非常事です。取りあえず彼女のことは置いておきましょう」
そういって薬師寺を宥めたのは生徒会長の斎藤兼光。
教師にも生徒にも信頼の厚い彼の申し出を、さすがの薬師寺も無下に扱うことはできず、激情を押し殺すようにして鼻で荒く深呼吸をした。
「まあいい。とにかく今は、指示があるまでは軽率な行動をとらず、ここで静かに待つように!」
薬師寺がそう言い残して他の職員の元へと戻ろうとしたときだった。再び一部の生徒たちがざわめき始める。
「貴様ら! 何度言ったら―――――」
振り返りざまに怒声を上げようとした薬師寺だったが、生徒たちが騒いでいる原因、異変に気が付くと、目を丸くしてじっと裏門の方を見つめた。
「なんだあれ……」
「見たことないぞあんなの」
生徒たちはそれを形容する上手い表現が見つからず、やがて誰もが固唾を飲んで座視していた。
彼らを取り囲むようにして虚空に出現した黒い渦は、低い電子音のような唸りを発しながら、回転の速度を増していく。
やがてそれは周囲に激しい電光をまき散らしながら、緩やかに形を変えていった。
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