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「春ちゃん……」
「嘘……だろう」
学校へと向かう春樹と朱音の行く手を遮るように出現した黒い渦が、ゆっくりと姿を変えていく。
粘土でもこねるかのようにして形作られたのは、身の丈3メートル以上はあろうかという巨躯の人間だった。
しかし春樹はすぐに思い直した。これを人間と形容するには無理がありすぎる。
ごつごつとした筋骨を覆う血のように赤黒い皮膚、毛髪の無い前頭部から真っ直ぐに伸びる巻き角。
丸太のように太い腕の側部からは、まるで刃物のように鋭利なヒレが飛び出している。
そしてそれはゆっくりと二人の方へと歩き始めていた。
一歩、また一歩とその歩を進める度にアスファルトが悲鳴を上げながら砕け散る。
(着ぐるみ? 特殊メイク?)
春樹はそれが無害である可能性を探っていた。だがすぐに頭を過ったのはあの声の主の言葉。
そう、『モンスター』だった。
「な、何かの撮影かな春ちゃん」
朱音も春樹と同じような考えだったらしい。
「そうだな。俺だってそう思いたい……けど」
怪物は既に二人の目前でその歩みを止めていた。そしてゆっくりと両手を上に振り上げる。
「どうみても有害だろうこいつは!」
春樹はそう叫ぶと同時に朱音の体を抱き寄せて後ろへと飛んだ。
爆弾が爆発したかのような轟音とともに、砕け散ったアスファルトの破片が二人の頭上に降り注ぐ。
「冗談じゃねえぞ……」
さっきまで二人の立っていた辺りの地面は、大地震に引き裂かれたかのように抉れていた。
「朱音、動けるか?」
「な、なんとか大丈夫」
「今の内に逃げるぞ」
怪物は地面に深々と刺さった自分の腕を引き抜けず、低い唸り声を上げていた。
春樹は朱音の手を取って起こすと、ここぞとばかりに震える足で走り始めた。
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