天使のラッパは鳴り響く

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 春樹たちが商店街で巨躯の鬼に出くわしていた頃、学校の校庭では集められた生徒たちの全てが言葉を失っていた。 「ひ、ひぃ……!」 「あ、ありえねえ、ありえねえよ!」  生徒たちは眼前の光景を、到底受け入れることなどできなかった。  学校の校庭に突如あらわれた真っ黒な毛並みの野犬が、いや、野犬などより二回りは大きいであろうその生物のうちの2頭が、目の前で「食事」をしていたのだ。 「い、痛いぃ! やめてぇ!、やめっ……でぇ……」     その悲鳴は、一斉に群がった他の獣たちの歓喜の歌によってかき消された。  獣たちは鮮血が吹き上がる最中に顔をうずめて、我先にと獲物の五体を奪い合っていた。  その凄まじい光景に、ある者は嘔吐し、またある者は完全に気を失って白目を剥いていた。  誰もまともに動くことは許されてはいなかった。  やがて獣たちは血溜りがからゆっくりと顔を上げると、次の生贄を品定めするかのようにうろつき始める。  生徒たちは座り込んだまま後ずさるようにして距離を取ろうとするが、下がった分だけ獣は前にでてくる。  まるで小魚の大群が数匹のサメに追い込まれるかのようにして、生徒たちは一か所に小さく集められていった。  数名いたはずの教師は、獣が食事をしているうちにどこかへと逃げ出しており、薬師寺だけが腰を抜かしてその場にへたりこんでいた。
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